南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

『メロン記念日物語』感想


メロン記念日のメンバーのブログには、今回の、
「作・演出:太田善也
というのが、メンバー側のたっての希望だったことがはっきりと述べられている。
当初公演日程が発表になった際、散歩道楽の本公演『かいぶつのこども』と日程があまりにも近いので、ちょっと心配になった。
普通なら、例えば昨年6月の『おじぎでシェイプアップ!』と『あたるも八卦!?』の時のように、片方に「演出:川原万季」を立てるのではないか?と思ったものだが。
しかしメロン側の強い希望で太田氏は、
「なにがなんでもやりたい」(パンフレットの言葉より)
と、引き受けてくれたようである。
もちろん、散歩道楽本公演の方は当然ながら太田氏がやらねばならないわけで、相当お忙しかったことであろう。
(事実、今回、太田氏は劇場には初日と楽日しか来られなかったらしい)




さて、この『メロン記念日物語〜Decade of MELON KINEN-BI〜』は、出演者の言う通り*1
メロン記念日という御輿をかついだお祭り」
であった。
だからこの作品は、一般的な演劇として批評する類いのものではないだろうと思う。


だいたい、「ニギニギ会」だの、
そのニギニギ会におけるループネタ(Berryz工房大活躍!)だの、
柴田あゆみがMCをやると照明が消えるだの、
大谷雅恵「マラソン」というキーワードで一気にテンションがさがるシチュエーションだの、
一般客が観たら(観たとしたら)「なんのこっちゃ?」という話だろう。
とくに、劇中劇『かば4』のくだり、劇中の並木秀介氏のセリフにあるように、
「『かば』観てなきゃわからないじゃないですか!」
という、まさに独走状態。


実際、例えば『かば』シリーズが1→2→3と進むごとに一般客が増えていったことに比べても、今回の客席は(Berryz工房含む)ヲタばっかり。



おそらく台本執筆の段階で、太田氏は腹をくくったのではないか。
これはメロン記念日とその関係者とメロンヲタの為に作るものであって、一般の観客に理解させる必要はない、という風に。
チケットがFCでほぼ完売してしまったことも、それを後押ししたかもしれない。


とは言っても、興行であるからきちんとまとめなければならないわけで。
このため、時系列が事実とやや違うところなどはあるが、むしろうまくまとめてくれたという気がする。



また、ヲタの視点が入っている、というのがこの作品の大きな特徴といえる。
とっくの昔に解散したグループを扱った内容ならまだしも、メロン記念日が一応はまだ現在進行形のアイドルであるということをふまえれば、普通はちょっとあり得ないだろう。


ただ、
「ずっとファンです」
という10年後の“ヲタもだち”のセリフには、この舞台を締めくくる言葉としてはいいと思うけど、正直ピンとこなかった。
筆者、たまたま以前に、70年代とか80年代のアイドルのファンで、いまだに活発な活動を続けている人が居ることを知っていたし、
そういえば、ブルックリン・ドジャース(1932〜1957)のファンクラブは今もあるんだものな…などと思っていたので。
ずっとファンでい続けることというのは、べつにたいしたことではないと思うから。


もちろん、当人たちがすごく嬉しいのはわかるけど。



しかし思い切ったものだ。
「この“ヲタもだち”さんは、事務所に悪意を持ってるね」
などというセリフが許されるとは…(笑)
そして散りばめられた自虐的とさえいえるセリフやエピソードの数々。
だいたい、
「トップアイドルだったわけじゃないし…」
「もっと売れると思ってたけどね(笑)」
なんてセリフが舞台で成立する(一応)現在進行形のアイドルなんてないだろう。
そこには、メロンと事務所側の太田氏への、そして観客であるヲタたちへの、厚い信頼が透けて見える。



そして、既に何度も述べているように、この作品には、“えびすさん”とか“京子ちゃん”とか、ヲタなら顔も知っている一般人たちが実名で登場する。
でも言っちゃ悪いが、メロンも周囲の人々も、そして劇中に登場するメロンヲタも…。


誰もかれもが、実にカッコよくない。


でも、思いがたくさん詰まっているから、むしろカッコよく思えてしまう。



とくに、オーディション前の四人それぞれの姿が描かれる場面は、さすがにグッとくるものがあった。
BGMが『ENDLESS YOUTH』という、これをメロンヲタが聴くとパブロフの犬の如く涙を流してしまう曲であったことを割り引いても、である。



以前に『かば』や『ロマンチックにヨロシク』の時に、
「太田作品の登場人物は、人生うまくいってない人ばかり…」
「(思いがこもっているから)間が抜けていれば抜けているほど感動的…」
などと書いた。
その時、
(だからメロン記念日は…)
とも思ったが、
(さすがにそこまでは…)
と、書く気にはならなかった。


しかし、この作品を観たあとなら、自信をもっていえる。
だからこそ、メロン記念日は太田作品に合うのだ、と。


これは決してメロン記念日を貶めることにはならないだろう。
「じゃあ、それってダメな人生なのか?…というと、『そんなことはない』というのが太田作品の一貫したテーマ」
だということも以前に書いた。
それに、こんな作品を作ってもらえたことで、メロン記念日は世界一幸せなアイドルグループになったと思うし。



共演陣はさすがに何度も一緒にやっている人ばかりで、とても意気が合っていた。
そこへ割り込んでくる形の並木氏がまたいい。
メロン記念日の『赤いフリージア』は、散歩道楽+『かば』組、いつかこんなことをやってくれるんじゃないか…と思っていたことだっただけにとても嬉しかった。


それと劇中劇『かば4』。
最後に菅原家のみんなに会えて良かったなぁ、と。
最後に『手をつないだ、春の夜』が聴けて良かったなぁ、と。



今思うのは、いつの日かまた、このメンバーでの舞台が観てみたい、ということ。
芝居の中と同じく“10年後の再会”でもかまわないから。




 
 



――『メロン記念日物語』、とりあえず、完了――