南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

散歩道楽特別公演VOL.2『ストロンガー』・感想

(公演終了につき、ネタバレあり。未見でDVDを楽しみにされている方は読まないか、読んでも斜め読みしてください)



散歩道楽特別公演」と銘うたれたこの公演、「特別公演」とは、『おじぎ』『かば』両シリーズやゲキハロなどのUFA主導の公演と、『レモンスター』『サンポジウム』などの劇団主導の本公演との中間、という意味らしい。



西国分寺にある西森家。
高校教師をしていた父は、既婚者であったにも関わらず、教え子の瑞恵(小林さやか)と恋に落ち、瑞恵は子供を身籠り、離婚→再婚、強が生まれた。
成長した強(宮原将護→植木まなぶ)は父と同じ教師の道を選ぶが、父の死後、生徒にいかがわしい行為をしたとの噂が立ち、さらに両親の結婚のいきさつが噂に拍車をかけてしまい、教師を辞め自堕落な日々を送るようになる。
おとなしすぎて小学校ではいじめにあっていた妹の育(田辺奈菜美萩原舞)も成長するにつれてグレて、母の財布から金を抜き取り遊びに行くようになる。
お嬢さま育ちで高校卒業後すぐに結婚したので世間知らずの瑞恵は戸惑うばかり。
そんなある日、瑞恵が突然失踪するが、すべてにやる気をなくしている兄妹は母の失踪からも背を向け、父の遺産が残っているのをいいことに相変わらずの日々を過ごしていた。
やがて兄妹の元へ、父の先妻の子で瑞恵を恨む赤木(谷中田善規)や、強の後輩・柳(椎名茸ノ介/上松コナン)ら思惑を秘めた訪問者たちが現れ、世間と隔絶していた兄妹は徐々に窮地に陥っていく。
(↑便宜上時系列に沿って書いておりますが、実際の舞台は母が失踪してからの現在進行形のストーリーに過去のエピソードが挿入される構成になっとります)



『かば』シリーズや『すこし離れて、そこに居て』に通ずる太田善也氏お得意の家族再生の物語。
今回の作品は一人二役ならぬ“二人一役”による現在と過去の場面を構成して、家族がいかにして崩壊していったかが描かれているのが特徴。
「言いたいことがあるなら言えよ!」
というセリフが過去の場面と現在の場面とで出てくる。過去の場面では兄が妹に、現在の場面では妹が兄に言っているのだが、これは時期が変わって兄妹の立場が逆転している演出である。
優秀で家族思いの兄・強は、その実自分が他人にどう思われているかがすべてだったが、悪い噂を立てられそれが崩壊。また、噂の広まった一因が両親にあることも母親への冷たい態度となり、すべてに自信を失って引きこもりとなってしまう。
おとなしかった妹・育は、優秀で心優しかった兄が変貌していくのを見て、家族や人間が信じられなくなり、努力することをやめてしまったのであろう。
この兄妹が立ち直っていくかどうかが物語の縦の軸。
母のアルバイト仲間であった一恵(村上東奈/菊池美里)が連れて来た探偵:龍之介(郷志郎/キムユス)が――彼も元々は金目当てだったのだが――次第に母の行方を懸命に調べていくようになるにつれて、ようやく兄妹も母の失踪に正面から向き合うようになっていく。



もうひとつ、横の軸となっているのが異なる二つの友の形。
優秀な強と出来の悪い後輩の柳。
強は後輩の柳を可愛がっているように見えて、腹の底では下に見ている。
柳は強を敬愛しているようにみえて、その実その強の心底がわかるのか、いつか立場を逆転させてやろうと狙っている。
仲が良いように見えて、実はお互いに裏切り合っている関係。
(強の悪い噂を撒いたのは柳である)


一方の育と神林久美子(中島早貴)。
金持ちだが勉強が出来ない育と、優等生だが家が貧しい為進学を諦めている久美子。
お互いの環境が正反対で、しかもお互いの環境をうらやましい気持ちもある二人は反発しあい、いつも喧嘩ばかりしている。
一歩間違えれば強と柳のようになりかねないのだが、二人には矢花まゆ(岡井千聖)という双方を理解している仲介者がいるのが大きい。
二人と違って平凡な家庭に生まれて…ということがまゆのコンプレックスになっているが、彼女の存在価値は本人が考えているよりも遥かに高い。
また、彼女は離れかかった兄妹の心を繋ぎ止めている唯一の存在でもある。
まゆは小学生時代に担任であった強の教え子でもあり、しかも彼女にとって強は初恋の相手でもあった。外見だけで強を好きになったようだが、まゆは割合早い時期に強という人物の本質をつかんでいたのではないかと思われる。
だから外見がすっかり変貌してしまった強のことを、
「今でも好きだよ…」
と、呟く場面は笑いを誘う場面ではあったが、同時に感動的でもあった。
全般的に岡井千聖殿、好演。物語の“要”の役割を果たしていた。
とくに力を抜いたセリフの言い回しがすごくいい。



ハロー!勢以外の出演者では筆者、『すこし離れて、そこに居て』以来、久しぶりに散歩道楽作品に出演した宮原将護氏に注目していた。
『すこそこ』では、この人の芝居で椅子から転げ落ちそうになるほど笑わされたが、今回の役を演ずるにあたり(太り始めた時期の強を演じる為に)かなりの増量をしたらしい。
この身体とも今日でバイバイっ〆
芝居冒頭近くの父の葬儀の場面では喪服の上着を着ているので目立たないんだけど、その数年後の上着を脱いだ場面になると、ものの見ごとなお腹が目立つ。芝居の為に増量したということにも頭が下がるが、あれは上着を着ている場面では相当きつかったのではないかと思われる。
また、宮原氏については、パンフレットの対談(太田善也×萩原舞×植木まなぶ)の中で、萩原殿より『戦国自衛隊』の時のエピソードが紹介されている。
姫役だった萩原殿は時代劇口調のセリフが全然喋れず、やむなく脚本・演出の塩田泰造氏が言いやすいようにセリフを変えてくれたが、宮原氏に、
「それは優しさとかじゃないと思った方がいいよ」
と、厳しいことを言われ、しかし個人練習に付き合ってくれた、という話である。
これは周囲の役者たちが、ハロー!勢を単なるアイドルとしてではなく、一個の役者、もしくはひとつの芝居を作り上げる仲間として見てくれていることのなによりの証といえるかもしれない。



太田作品は『かば』シリーズなどでも顕著であったが、役者に劇的なセリフを言わせず、何気ないひとことで綴られていく。
「強くなりたい」
「大丈夫」
その簡単な言葉の底に深い想いを感じさせる、さわやかな余韻の残る舞台だった。




――散歩道楽特別公演VOL.2『ストロンガー』、了――