南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

『シュガースポット』感想

(以下、公演終了につきネタバレあり。未見でDVDを楽しみにされている方は読まないか、読んでも斜め読みしてください)


大人の麦茶第二十杯目公演 「シュガースポット
シュガースポットっていうのは、バナナの皮に浮かぶ茶色い斑点のこと。 傷んだと思って捨ててしまってたけど、実は甘くなったサインなんだって。きっと、この胸の痛みは、あたしの人生のシュガースポット。二十歳を迎えた女の子ふたり、今日とはちがう明日へ旅立つ。
日時
東京:2012年11月21日〜11月27日
大阪:2012年12月1日〜12月2日
会場
東京:新宿 紀伊國屋ホール
大阪:イオン化粧品シアターBRAVA!

http://gekipro.com/Gekipro/stage?id=116

とある南の島。
老いた畳職人の山崎誠亮(宮原将護)が、餅を喉に詰まらせて死ぬ。
おじいちゃん子で誠亮のことが大好きだった孫娘の青葉(矢島舞美)は深い悲しみに沈んでいて、彼女に惚れている畳職人の慎之介(中江翼)やバンド仲間の宗八(天月)の言葉にも耳をかさない。
しかし、誠亮は成仏出来ずに守護霊たち(和泉宗兵・宮本佳林)とともにいた。まだこの世にやり残したことがあったのだ。それをなんとか青葉に託したいが、守護霊たちの話では、霊となった身ではそれも不可能だった。
そんな誠亮の霊に、悪霊・夜子(村上東奈)が接近する。夜子は守護霊たちの目を盗み、誠亮にこの世の者とコミュニケーションを取る方法を教える。しかし、それには条件があり、相手のこの世の人間がその霊に会いたい気持ちがよほど強くなければならない。
結果、青葉の誠亮に会いたい気持ちは強く、二人はコミュニケーションを取ることが出来るようになる。
人は死ぬとその人が最も美しかった時の姿になるとかで、若かりし頃のイケメン姿で目の前に現れた誠亮に青葉は仰天。しかし誠亮の口調や口癖はおじいちゃんのままなので事態を理解するに至る。しかも「おじいちゃん、こんなにカッコ良かったのね♪」と大喜び。
しかし、誠亮が“この世にやり残したこと”というのが自分と同年代の女性とのデート、年に一度の島祭りに行くはずだったことを知り、複雑な思いにかられる。
青葉はとりあえずどんなやつか見てやろうとその女性・希(徳永千奈美)の働く果物屋に行き、誠亮が死んだこと、誠亮からの伝言「一緒に島祭りには行けなくなったが、代わりに店長と一緒に行ってほしい」を遺言として伝え、誠亮が死んだことを知った希は山崎家に向かう。
一方、果物屋には希を探している謎の二人組(並木秀介・ヒョギ)が現れ、店長(池田稔)から希の居場所を聞き出そうとする。
誠亮と仲良くしていたという希の来訪に山崎家の人々(中神一保・肥後あかね・田辺奈菜美)は歓待するが、青葉は面白くない。しかも誠亮が好きだった歌を希にだけ教えていたこと、希が唄うその歌が大好きだったこと、さらに誠亮が希を島祭りに連れて行きたかったのは、彼女を島一番の美女を決めるコンテストに出すことが目的だったことなどを知るにつれ、「なんで私じゃなくてこの人なのよ!」と、次第に怒りがこみ上げてくる。
その青葉の怒りにつけこんで、その身体にのりうつる夜子。
夜子の霊はあることで山崎家に深い恨みを抱いていた。その恨みとは誠亮にも関わることだった。誠亮は夜子に謝り、止めようとするが夜子はきかない。夜子にのりうつられた青葉は、誠亮の形見の包丁で家族を傷つけようとする。守護霊たちはこうなっては青葉ごと夜子を消すしかないと考える。「それだけはやめてくれ!」と懇願する誠亮。
その場を機転でもって収めたのは希だった。
やがて誠亮の口から、遠い昔の話が語られる。青葉は誠亮の愛情の対象が何故自分でなくて希だったのかを知ることとなる。




この世に想いを残して成仏出来ない霊たち。
劇場が同じ紀伊國屋ホールだからか、ちょっと『ネムレナイト2008』(出演:柴田あゆみ)を思い出す内容。
あの作品でもそうだったが、霊もまた経験を積み重ねることによって成長していく、という設定が面白い。
主演:宮原将護氏。
北区つかこうへい劇団出身。大人の麦茶散歩道楽空間ゼリーと、ハロー!勢ゆかりの劇団作品に出演。ハロー!勢とは初顔合わせとなった舞台『すこし離れて、そこに居て』(出演:大谷雅恵柴田あゆみ)では衝撃を受けた…、というかそのとぼけた演技に笑いに笑った。今回はその時に近いとぼけた役柄。
ヒロイン二人は、おしとやかな徳永千奈美殿。やや乱暴な矢島舞美殿。
いずれも新境地。観劇中、この二人の役が逆だったらどうなるんだろう?などと何度か思った。
プライベートでは親友である二人を対立構図に置くというのは意外に成功することが多い。親友同士には対立関係にある役柄を演じさせた方がいい、というのはこれまでにも例があったと思う。


タイトルの「シュガースポット」とは、バナナの皮に浮かぶ茶色い斑点のこと。
この斑点が出てくると糖度が増して甘くなり、また、栄養価も最高レベルになっていることがわかるので、「シュガー(甘い)スポット(目印)」の名前がついたとされる。
「人生のシュガースポット」。
うまく言い表せないが、作品全体をこの主題が貫いている。


惜しむらくはやや南の島感が薄れてしまったかな?と。ちょっとバナナの話が活きてこない。
しかし、これはストーリーが設定に優っていた。
ラスト、誠亮を“晶代しゃん”が迎えに来る場面は充分予想出来るのに感動せざるを得ない。


ちなみにこの「山崎誠亮」「晶代(てるよ)」というのは塩田泰造氏の実際の祖父母の名前だそうだ。
また、「高嶽院」というのはその祖父氏の戒名だという。
とすれば、矢島舞美演ずる青葉は塩田氏の分身といえる。
もう一人の守護霊・宮本佳林演ずる望音の正体がラスト近くに明かされるが、それもまた感動を増幅させる。
個人的に注目させられたのは、夜子役:村上東奈殿。今年はNHK連続テレビ小説カーネーション』に出演するなど飛躍のきっかけをつかんだ年だったんだと思う。本当にいい女優さんになった。


全体的にはたいへん好感の持てる舞台。
演劇の聖地・紀伊國屋ホールの歴史に、またひとつハロー!勢出演の舞台が刻まれたことを素直に喜びたい。



なお、塩田氏によれば、

シュガースポット』の原案は、今はもうハロー!プロジェクトを卒業したある女の子が
2007年7月に書いたブログの文章からいただきました。懐かしさと感謝をこめて記しておきます。

とのこと。


http://yuukarin.com/egg/yuuka/p=154.html
 
 
塩田さん、ありがとう。




――『シュガースポット』、了――