1963年東宝映画。
【製作】藤本真澄、金子正且
【原作】山口瞳
【脚本】井手俊郎
【監督】岡本喜八
【撮影】村井博
【音楽】佐藤勝
【アニメーションデザイン】柳原良平
【出演】小林桂樹、新珠三千代、東野英治郎、英百合子、江原達怡、田村奈己、中丸忠雄、横山道代、平田昭彦、太刀川寛、ジェリー伊藤、桜井浩子、二瓶正也、小川安三、西條康彦、塩沢とき、沢村いき雄、松村達雄、砂塚秀夫、天本英世、草川直也
(2008年3月6日、NHK-BS2にて放送)
江分利満(えぶり・まん)、36歳、サラリーマン、社宅住まい。発作を伴う奇病を患う妻と、喘息持ちの長男あり。さらに戦時中に軍需産業でひとやま当てたが今は借金だらけとなった老父と、その父にさんざん苦労させられた老母…。
江分利は夜毎酒場で酒を飲んではクダをまきまくる。
そのクダの「まきっぷり」を酒場に居合わせた出版社の人間に評価され、勧められて、思いのたけを文章として書いたところ、雑誌に載り、やがて本となり、さらには直木賞まで受賞してしまう。
受賞を祝い、会社の若い社員たちに親睦会に招かれるが、その席でも江分利はクダをまきまくる…という物語である。
原作は本当に直木賞を受賞した山口瞳氏による同名小説。
従って、直木賞をとるくだりなどは映画のオリジナルである。
原作を読んでも映画を観ても、江分利満=山口瞳という構図は容易に類推出来る。
(江分利満役・小林桂樹氏は眼鏡なども山口瞳氏そっくりの姿)
また、山口瞳1926年(=大正15年=昭和元年)生まれ、岡本喜八1924年生まれ、という同じ戦中派であり、この世代の心情に多くを割いた作品となった。
従って江分利満=岡本喜八、という構図も成り立つのである。
それにつけても、オープニングとエンディングの、この歌やダンスを繋いだ映像の楽しさと躍動感は一体なんであろう。
ハロプロのPVスタッフたちよ、少しは見習ったらどうだ?
さて、筆者のクダはこの程度にして、江分利満のクダをよく見て(聞いて)みると、若い者に対する説教ではないことに気づく。
江分利は若者たちにはなんの偏見ももっておらず、「最近の若いもんは…」的なことは一切言わない。
オシャレに気を使う若い男性社員(江原達怡)に対しても、
「ほう、そうかね…」
と、賛同はしないまでも、べつに否定はしていない。
むしろ江分利の怒りは、かつて自分たちを戦場へとかりだした明治生まれの老人たちに向けられており、
「彼らが再び若者たちを戦場へ送り出すようなことは、俺は絶対に許さない」
としている。
なお、このような思いは、岡本喜八監督には濃厚にあるようで、のちの監督作品『近頃なぜかチャールストン』(1981年)、これは次第にタカ派的になっていく日本という国に不信感を抱いて、勝手に独立国家を作ってしまった不良老人たち(その姿は、江分利満の後の姿、とも捉えられる)の物語であるが、その“国家”に“亡命”してきた若者(利重剛)に国家の主旨を語る言葉として、総理(小沢栄太郎)に、
「ホントは若い人たちの為…、いや、やめておこう、押し付けがましい…!」
というセリフを吐かせている(脚本は岡本喜八と利重剛の合作)。
この作品の悪玉は、軍需産業で儲けている悪徳代議士(演じるのは『江分利満氏〜』で江分利の兄役だった平田昭彦)であった。
江分利が若い社員たちにまいているクダは、
「私たちはこういう経験をもった。こんな思いをした。そのことを君たちに伝えておきたい」
というものである。
朝まで付き合わされてしまった二人の若い社員(二瓶正也、小川安三)は、やがて江分利の経験を、自分たちの経験(60年安保)に照らし合わせて思いをはせる…。
これもまた、冒頭のビスマルクの言葉に通ずるものなのかもしれない。
「私はまったくの新人。諸先輩方からもっと学ばなければ!」(真野恵里菜)