南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

宮武外骨と滑稽新聞

印刷博物館へゆくの巻、つづき―。




宮武外骨、是本名也。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E6%AD%A6%E5%A4%96%E9%AA%A8


明治から昭和にかけて、代表作『滑稽新聞』を始め、パロディ精神に富んだ内容の数々の雑誌を創刊した人物。
その業績については、甥にあたる吉野孝雄氏や、赤瀬川源平氏の著書に詳しい。


外骨に関しては、「癇癪と色気」というのが一貫したテーマであり、権力に噛みつき(「癇癪」)、また意味深なイラスト(「色気」)を数多く生み出した。


ね?




冒頭二枚目のこいのぼりにカップルが乗っかっている表紙。
実は裏表紙は、こいのぼりのお尻から胎児が出てくる絵なのだ。



他にも活字を使った遊びが随所にあり、筆者程度でも再現出来るものとしては、こんなものがある。


霧霧霧霧霧霧霧霧
霧露霧霧霧霧霧霧
霧艦霧霧霧露霧霧
霧霧霧霧霧艦霧霧
霧霧霧霧霧霧霧霧
霧霧霧露霧霧霧霧
霧霧霧艦霧霧霧霧
霧霧霧霧霧霧霧霧


これは霧の中のロシア艦隊(ウラジオストック艦隊)を表したもの。


なんとなく、昨今のAAに通ずるものがありますな。




また、『滑稽新聞増刊』という形で、『絵葉書世界』というものも刊行しており(当時は空前の絵葉書ブームであったらしい)、これもまた、絵がいろいろと意味深なのである。


印刷博物館でも、赤瀬川氏の著書などでも触れられているが、時代的には、ちょうど印刷が木板から平板(アルミ製)に移行した頃で(滑稽新聞1901〜08年)、よりきめ細かい印刷が出来るようになった時期であった。




ところで、外骨を紹介した評伝などでは、彼のことを「ジャーナリスト」という肩書にしている。
どうも『滑稽新聞』などのアート面から面白がってこの人に興味を持った筆者から見ると、
「この人、ジャーナリストというくくり方でいいのかな?」
とも思ったりもする。


確かに外骨は、数多くの雑誌を創刊したし、衆議院議員鳩山一郎(後年、総理。鳩山由紀夫・邦夫兄弟の祖父)の選挙違反、大阪市議・野口茂平(ワダ・エミの曽祖父)のインチキ薬品業、大阪安治川警察署長・萩欽三の収賄、大阪郵便局長・野口重備の第三種郵便物不許可…などに対して自らの雑誌で罵倒し続け、他にも朝日新聞始め大新聞なども批判の対象とした。
不敬罪などで入獄4回、発禁・罰金刑は生涯で29回である。


外骨と同時代のジャーナリストといえば、例えば陸羯南(くが・かつなん。新聞『日本』社主・主筆)がいる(羯南が10歳年長)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B8%E5%AE%9F


正岡子規を庇護したことで知られる人物だが、政府の不正・腐敗を糾弾し、発行停止処分をくらいながらも、堂々たる論陣を張って政府に対抗した。
その姿はあくまでも重厚であり、政府内にも羯南を敬愛する人物もいたらしい。


そこへいくと外骨の場合は、どちらかといえば権力をおちょくること、強者に対して抵抗している自分の姿を読者に見せて楽しませようとしているように思える。

↑癇癪を起こしている外骨像。


なお、外骨はのちに西田長寿と共著で『明治新聞雑誌関係者略伝』という本を著し、その中で羯南を紹介しており、その存在にはやはり一目置いていたのであろう。
偶然ながら、羯南と外骨は同じ巣鴨の染井霊園に眠っている。




現代に於いては、ジャーナリズム、ジャーナリストという言葉がマスコミという言葉にとって代わられて死語となりつつあり、テレビ局の人間や新聞社の人間が花形職業となり、高給取りとなって、ある種の権力を持ってしまうと、本当の意味でのジャーナリズムというのは育ちにくいのかもしれず、また、ジャーナリストやらニュースキャスターがある程度の社会的地位を築いてしまうと、今度は自分の意見を読者だったり視聴者だったりに押し付けてしまう危険性もはらんでいる。
我々庶民としては、外骨のような人物が権力にあたり散らしている姿を笑いながら応援しているのが正しい姿なのかもしれず、そういう意味では外骨のやり方は案外、的を得たやり方だったのかもしれない。




それにしても外骨の真骨頂は、不敬罪などで入獄している時の姿だろう。
入監期間中、『滑稽新聞』表紙には「小野村夫(外骨のペンネーム)子目下入獄中」と書かれてあり、誌面では自分が現在どんな獄中作業(懲役)をやっているかを詳しく報告(作業が変わって「商売変更」などの報告もある)する連載になっている。
さらには、獄中の自分と、自分が罵倒しながらもなお権力の座にある者との日々の暮らしを比較したりしているのだ。
むろん、日々の生活は権力側が勝っているのだが、双方が見ている夢の中では、外骨が圧倒的に勝利している、というオチであり、これ、読者は拍手喝采だったに違いない。


某ライ〇ドア元社長も、某音楽プロデューサーもこれくらいのことしてみたらいいのに…。