南アルプス天然少年団

南アルプス天然少年団

通りすがりの傍観者の足跡。

『薔薇画茶』感想

(公演終了、並びにDVD化の予定もないそうなので、ネタバレ多数あり)



いくつかのショートストーリーとパフォーマンスで構成されている、タイトル通りバラエティあふれる作品。
しかも、ちゃんと薔薇にまつわる挿話(花言葉など)が入っているのが心憎い。
そして演じるのが、主にハロー!系のダンスの先生方、というのが見どころ。



軸となるストーリーは大きくわけて四つ。


1)彼氏の居ない同士、親友だと思っていたさえちゃん(大谷雅恵)に、実は同棲している彼氏が居ることを知った女性(役名失念。田代直子)の彼氏ゲット作戦。
暴漢(拓未)に襲われるも、たまたま居合わせた泥棒(TOMO)に救われる。泥棒は暴漢を誤って刺してしまうが、その泥棒がイケメンだったために、彼女は泥棒の正当防衛を証言して…。


2)偶然電車で乗り合わせた、わけありの少女とわけありの中年男の逃避行劇(『つまんねえねんまつ』脚本:塩田泰造)。
「つまんねえねんまつ」ほか、次から次へと飛び出す回文のセリフ。
男:“ニワトリ”こと丹羽(向井祐二)は組織に命を狙われて追われていた。そして、家出風少女:“コトリ”こと琴子(星☆美優)のカバンの中身はいったい…?


3)かつてのスター:アキ(YOSHIKO)はモチベーションを失って失踪。
とある田舎町の中学生:キリ子(みつばちまき)と沙希(井上舞)はアイドルを目指すが、沙希の父親が事業に失敗、オーディション直前に沙希の一家は夜逃げして、二人は離れ離れになってしまう。
約20年後(?)、キリ子は沙希が名付けた“クロリス”(薔薇の一種)のユニット名を守り、未だにアイドルを目指して路上ライブで奮闘中。しかし、ホームレスたちからは天使のように扱われていた。
その路上ライブを失踪したアキが見つめていた。
ライブに感激したアキはキリ子に思わず抱きつく。
アキこそ、沙希の後の姿だった。しかし、キリ子はそのことに気がつかない。
モチベーションを取り戻したアキは、再び華やかな世界へと戻っていく。(『クロリス』脚本:鈴木健介)


4)路上ミュージシャンのコーちゃん(大森郁)とOLのさえちゃんは、ふとしたことから知り合い、恋におちる。やがて二人は同棲を始めるが、次第にさえちゃんの物忘れが激しくなってゆく。さえちゃんは少しずつ記憶を失っていく病気に冒されていた…。



この他、会場でも大人気だったグリーンマンや、痴漢に間違えられた中年男(SHU110)の悲喜劇をアリスの名曲『チャンピオン』にのせてセリフ無しのダンスでつづるパフォーマンスなどがあり、観客を飽きさせない。


また、各ストーリーの登場人物が少しずつ被っていて、痴漢のくだりで痴漢の被害者はさえちゃんだったり。
このあたりは、矢島舞美殿の感想が的確だと思われる。
ラストは大団円らしくオールキャスト総登場。



さて、徐々に記憶を失っていくさえちゃんを演じた大谷雅恵殿。
すぐに思い出すのは、『刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ』での記憶が一日しかもたないヒロイン:静役である。
(あら、またそういう役なの…?)
とも思ったが、一度やっているからかもしれないが、記憶を失ってからの芝居は真に迫るものがあった。
また、完全に記憶を失う前に…と書いたコーちゃんへの手紙は、自然な言葉と事柄でつづられているだけに、思いが詰まっていて、かえって切ない。


おなじみ、大人の麦茶塩田泰造氏脚本による『つまんねえねんまつ』は、オトムギの舞台というよりも、かつてテレビ東京系で放映された塩田監督によるミニドラマ『空の港で。』(2008年。第25話。出演:並木秀介尾上綾華)を思い出す。



そんな中でも、この舞台の根幹となっているのは、アキとキリ子の物語だろう。
おばちゃんになってもアイドル目指して路上ライブというキリ子の姿は実にカッコ悪い。
でも、キリ子はいつも前向きで元気。それがホームレスたちに生きる勇気を与えている。
その姿は、迷っていたアキを感動させるのに充分だった。
また、徐々に記憶を失ってゆき、自分のことすらも忘れてしまいそうなさえちゃんを想って苦しむコーちゃんを励ますのもキリ子である。
「愛し合っていた記憶がなくなるのなら、何回でも何回でも告ればいいのよ!」
もう、キリ子がカッコ良く見えてくる。
カッコ悪いことをたくさん重ねていくとカッコ良くなる…。
ひょっとすると、それがダンスというものなのかもしれないな、とも思った。
もちろん筆者はそんな経験などないが、カッコ悪いレッスンを積み重ねていくとカッコいいダンスになるのではないか。
あるいは芝居の稽古というのもそうなのかもしれない。


しかし、ご自分も、
「おばちゃんの役」「おばちゃんは役じゃないわ 現実じゃ〜」
とは言っておられるが、みつばち先生、ミニスカートのおみ足、たいへんお美しゅうございました。



ちなみに、劇中でアキが踊る曲が、大谷雅恵『Killing My Caddy』。
これが新婦を感涙させた、例の結婚式でのパフォーマンスに繋がっている。




ともあれ、いろんなことを続けているといろんなことに繋がったり、いろんな人を感動させたりするんだ、ということを思わせてくれる舞台だった。




――『薔薇画茶』、了――