南アルプス天然少年団

南アルプス天然少年団

通りすがりの傍観者の足跡。

『HOTEL死界覚』


(公演終了につき、ネタバレ多数。ご注意下りますよう)

配役

役名 設定 演者 所属
高田有 28歳 品田裕介 UMBRELLA
大塚今日子 有の婚約者 古川小夏 アップアップガールズ(仮)
みき 今日子の友人 小笠原茉由 ex.AKB48
康介 有の友人 芹沢尚哉  
ジュリ 魂屋 石川よしひろ  
シェルジュ 魂屋 大浦育子 ex.キャナァーリ倶楽部/ミスマリ
ハチ 死界覚の住人 島根さだよし しまぁ〜ん共和国
ナナ 死界覚の住人。ハチの娘 大貫彩香  
ミント 死界覚の住人 十枝梨菜  
おナル 死界覚の住人 杉本海凪 恵比チリDAN
小松 死界覚の住人。旧日本軍兵士 谷川功 崖っぷちウォリアーズ
ハマのメリー 死界覚の住人 工藤亜耶  
武井咲 死界覚の住人 屋良KONASU しまぁ〜ん共和国
先生 医師 坂本真  
ナース 看護師 書上あずさ しまぁ〜ん共和国
ヘル 地獄の案内人 竹匠  
アンフェール その助手 月乃きら  

あらすじ

婚約者の今日子(古川小夏)と結婚間近だった有(品田裕介)は、ある日ながら運転で暴走した車による交通事故に遭って重傷を負い、脳死状態となるが、その魂は生と死の狭間の世界「HOTEL死界覚」へと導かれる。そこにはさまざまな理由で生と死の間をさまよう住人たちが居た。
魂屋のジュリ(石川よしひろ)とシェルジュ(大浦育子)に今後の説明を受ける有。有は事故の被害者なので、このまま死を受け入れれば天国に行けるという。生への復帰を願うのならば、この死界覚で良いことをすればもらえる魂(コン)を108個集めなければならない。しかし、生きている人間やその世界の物に触れた場合は地獄行きとなってしまう。
今日子と再会したい有は天国への道を捨て、魂(コン)を108個集める道を選ぶが、実際には何をすればよいのかわからない。
一方、残された今日子を励ます友人のみき(小笠原茉由)と康介(芹沢尚哉)だが、二人にはそれぞれ有と今日子に対する強烈な嫉妬があり、二人をもっと不幸にしようという思惑がある。
今日子は医師(坂本真一)に、有は助かる見込みはなく、ドナーとなって臓器提供することを勧められるが、踏ん切りがつかない。
共に迷う有と今日子。死界覚の先住者たちはそんな二人の純愛に、二人のために何か役立てないか?と、心を動かされる。
やがて今日子は後追い自殺を図る。自殺は即地獄行きであるため、有はなんとか阻止しようとするが今日子には触れることが出来ない。また、みきと康介は有の延命処置を絶とうと画策する。しかし、死界覚の仲間たちの助けによっていずれも救われる。その代償として、仲間たちは次々とヘル(竹匠)によって地獄へと落とされてゆく。
かくして有は仲間たちの犠牲によって魂(コン)を108個貯めることが出来、現世へと戻ることが出来るのだが…。
(上演時間1時間55分)


感想

瀕死の状態になって生と死の間をさまよう者は一旦「死界覚」に運ばれ、そこで成仏するか、生き返る道を選ぶか選択する。


生と死の狭間の世界の物語で、ハロー!系の舞台でこういった内容の作品には、大人の麦茶の『ネムレナイト』(2006年。保田圭出演)や、その再演となる『ネムレナイト2008』(2008年。柴田あゆみ出演)があった。
大人の麦茶 『ネムレナイト』 - 演劇プロジェクト
大人の麦茶 『ネムレナイト2008』 - 演劇プロジェクト
この世に未練があって成仏出来ない幽霊の話である『シュガースポット』(2012年。矢島舞美徳永千奈美宮本佳林田辺奈菜美)などもその範疇に含まれるかもしれない。
大人の麦茶『シュガースポット』 - 演劇プロジェクト
映画なら『天国から来たチャンピオン』あたりが有名なところであろう。
天国から来たチャンピオン - Wikipedia
また、似たような架空の設定の物語では、村田めぐみ殿(ex.メロン記念日。当時ムラタメグミ名義)が出演した『夢落ち』(2010年。こちらスーパーうさぎ帝国)という舞台があって、これは夢の中に強制的に引きずり込まれた登場人物たちがその中のルールによって夢の中から脱するか、そのまま眠り続けるか葛藤する物語であったが、雰囲気はよく似ている。
こちらスーパーうさぎ帝国(こちうさ)公式Webサイト | 過去公演
『夢落ち』感想
こういった架空の設定の物語は緻密さが必要で、少しでもほころびがあれば台無しになるので難しい。


さて、今回の舞台。
よくわからないのが、魂は死界覚に来ているとして、その肉体はどうなっているのかということだった。
ドナーとなって臓器提供をすれば魂(コン)がたくさん貯まって生き返れる道が近づくということであったが、臓器がなくなっても生き返れるということだろうか? 旧日本軍兵士の小松やハマのメリーのような時代が古い者の肉体は一体どうなっているのだろう?
良いこと=その代償として地獄行きとなるようなこと=をしなければ魂(コン)は貯まらず、死界覚の先住者たちは自らを犠牲にして地獄へと連れて行かれる。
この“地獄”というものがどういった場所であるかは物語のラストに明かされるのであるが、実は良いことをした者たちが楽しめる場で、
「“一回行ったら帰りたくなくなるから蟻地獄みたいだ”ということから“地獄”と呼ばれるようになった」
というのは本末転倒というか、ちょっとなぁ…(失笑)という感じ。
さらに自殺した、つまり命を粗末にした今日子が、彼ら彼女らと一緒に地獄に居ることがよくわからない。
自殺を選んだ者が、彼女の自殺を阻止しようとして犠牲となった者と同じ待遇ということには強い違和感が残る。
もっとも、今日子はその死界覚の住人たちが自らを犠牲にして良いことをするように心を動かしたことが評価されたから、と解釈することも出来る。
しかしそうなると、ながら運転で有を事故に遭わせたミントの弟が「ヘルによって地獄へ連れて行かれた」という話とも矛盾する。
そもそも有が脳死状態とはいえ、まだ生きているのに、今日子が死を選ぶことは不自然であろう。
それに生き返ったはずの有がなんで地獄に居るのかはさっぱりわからない。今日子を追って自殺でもしたのであろうか?
また、細かいことをいえば、旧日本陸軍兵士の小松が「ドナー」という言葉を発するのには違和感でしかないし、ハマのメリー(今作品の登場人物の中では唯一の実在した人物)が「グループ交際」という言葉を口にして、他のみんなから「古い!」と言われるが、ハマのメリーの世代ならばむしろ新しいのではないか?…などなど。
大筋では笑いを誘う場面も多く、上演時間が1時間55分と小劇場の演劇としてはやや長いが、役者一人一人に見せ場もあり、時間が気にならない楽しめる舞台だったが、細かい部分が雑で辻褄が合わない台本であったことは否めない。


余談だが、筆者は横浜生まれの横浜育ちで、両親は晩年の「ハマのメリー」なる人物を実際に目にしている。
彼女は没年不詳であるが、その晩年、横浜駅前の高島屋などで買い物をしている姿が時折見られたという(今舞台での工藤亜耶殿のように白塗りの化粧であったらしい)。
伝説の娼婦・白塗りのメリーさんを知る横浜の文化人に直撃インタビュー! - [はまれぽ.com] 横浜 川崎 湘南 神奈川県の地域情報サイト*1



演者個々。
古川小夏殿。
アプガの公演では笑わせる役割が多いが、今作品では一切なし。
そもそも美形の人。むしろこの人はちゃんと清楚なヒロイン役を演じることが出来ることを証明した形となった。
敵役の小笠原茉由殿。
どSキャラで憎まれ口を叩くエロキューション(口跡)が見事で好演であった。
グラドル勢も初舞台であったという横乳プリンセスこと十枝梨菜殿始め、好演が目立った。
であるからこそ、余計に台本の不備が残念であった。





――『HOTEL死界覚』、了――
 
 

*1:映画『コールガール』(1982年松竹。小谷承靖監督。主演:MIE=元ピンクレディー。現:未唯mie)は、この“ハマのメリー”をモチーフにした作品(ヒロインの役名がマリア)MIE - コールガール 夜明けのマリア - YouTube