南アルプス天然少年団

南アルプス天然少年団

通りすがりの傍観者の足跡。

「滑稽」の行方


先日、町田市立博物館へ『滑稽探索 田河水泡の研究とコレクション』展を観に行った。
https://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/bunka_geijutsu/cul/museum/kokkei.html
「滑稽探索」展チラシ(PDF・1,819KB)
「滑稽探索」展出品目録(PDF・1,334KB)

展覧会概要
身寄りのない捨て犬の野良犬黒吉が、へまや失敗を繰り返しながら元気いっぱいに生きていく漫画『のらくろ』は、1931年から『少年倶楽部 1月新年特大号』にて連載がはじまり、10年以上にわたる長期連載となって一世を風靡しました。この『のらくろ』をはじめ『蛸の八ちゃん』『凸凹黒兵衛』など次々と人気漫画を描いた作者の田河水泡(本名:高見澤仲太郎 1899−1989)は現在の墨田区立川に生まれ、町田で晩年を過ごしました。長く滑稽を描く仕事に携わってきた水泡は滑稽とは何か、どうして滑稽と感ずるのかなどを調べてみたいと思うようになり、その研究は『滑稽の構造』(講談社、1981年)と題され出版されました。また、日本の滑稽史を探る研究は『滑稽の研究』(講談社、1987年)として世に出ました。水泡は滑稽研究のために、江戸時代から昭和にかけての、滑稽を描いた浮世絵や草双紙、風刺画などを数多くコレクションしていました。こうした作品や資料は研究が一区切りした後、地元・町田市の博物館である当館へと寄贈されました。
本展覧会では田河水泡の歩みやコレクションを紹介しながら、その研究をたどります。
(町田市ホームページより)


町田市立博物館は町田駅からバスで15分ほどの「市立博物館前」バス停で下車、そこから急な坂道を10分ほど登ったところにある。

(なかなかの急坂(汗))


展示は大きく分けて、2つに分かれており、
ひとつは田河水泡[本名:高見澤仲太郎*1。1899年(明治32年)-1989年(平成元年)]の生い立ちからその生涯。
田河水泡 - Wikipedia
従兄である浮世絵師・高見澤遠治(Wikipediaでは「叔父」とあるが、従兄が正しいらしい)の影響で画家を志し、のち新作落語の台本を執筆(代表作『猫と金魚』)。
三遊亭道楽『猫と金魚』 - YouTube
そして漫画家への転身。
代表作である『のらくろ』等の作品やその原稿。
(原稿の端に印刷の際のサイズ注文であろうか、「◯寸◯分」などと書き込まれているのが時代を感じさせる)
弟子の長谷川町子や、田河水泡を敬愛していた手塚治虫らとの交流録。


余談ながら、『のらくろ』は祖母も父も大好きだったので、我が家に戦前のものの復刻版(昭和40年代の版)ならわりと揃っている。


固い厚紙のケース、布が貼られた表紙。世代が異なっても愛着を持たずにはいられない装丁である。
のらくろは日本漫画&アニメの最初のスターキャラクターであり、戦前に既に海外進出を果たしている(ヨーロッパでグッズが販売されていたこともあったらしい)こともあって、ミッキーマウスに対抗できる存在であるとかねがね思っているのであるが。
Norakuro - Wikipedia(英語版ウィキ)
(1929年=昭和4年=製作)
どんぐりこ - 海外の反応 海外「さすが日本」戦前に製作された日本のアニメに海外が感動



さて、展示のもう一つの柱は、田河水泡の晩年の著書『滑稽の構造』『滑稽の研究』を執筆した際の膨大な資料の一部(500点以上あるらしい。現在は町田市立博物館蔵)。
江戸期〜昭和初期に描かれた現代の1コマ漫画の元祖のような作品が並んでいる。
この中では「鯰(ナマズ)絵」というのが面白かった。
鯰絵 - Wikipedia
安政の大地震1855年。M7クラス)直後に大量に(それもどさくさに紛れて無許可で)出版されたものだそうで、地震の元凶とされていたナマズを懲らしめるタイプの絵が多い。
震災後の復興で大工や木材商が莫大な利益を上げたことを風刺したものもあり、ナマズに感謝して仲良くやっている大工や木材商を恨めしそうに見ている震災で亡くなった人たちの幽霊…なんて絵もあった。

パブリックドメイン美術館 鯰絵(なまずえ)
また、幕末〜明治初期に描かれた風刺画は、大抵が幕府や会津藩などの奥羽列藩同盟方びいきで、官軍側を揶揄しているものが多い。そういうものの方が江戸ではよく売れた、というのが判官びいきの江戸っ子たちの気概を感じさせて、なかなか興味深いものがある。



見学に行くまで、何故「田河水泡=町田」なのだろう?と思っていたが、冒頭に記した「概要」の通り、田河水泡は晩年町田市(玉川学園のそばらしい)に住んでいたそうで、その縁で寄贈したのだそうだ。
展示は1月21日まで。
 
 

*1:「たかみざわ」→「たかみずあわ」→「田河水泡