南アルプス天然少年団

南アルプス天然少年団

通りすがりの傍観者の足跡。

大人の麦茶第十九杯目公演 『B・B〜bumpy buddy〜 』・感想

(公演終了につき、ネタバレあり。物語の結末については触れておりませんが、未見でDVDを楽しみにされている方は読むのにご注意ください。)



登場人物の人間関係が複雑に絡み合っていて、誰と誰とが知り合いで、誰と誰とが初対面で(もしくは初対面のふりをしているか)…ということが物語の根幹に関わってくるのだが、そこはさすがに整理されているのでわかりにくいことはない。


坊屋は他人に触れるとその人間の意思を読み取ることが出来るという特殊能力を持っているが、だからこそ、
手をつなぐこと。
触れ合うこと。
口に出して言ってあげなきゃいけないこと。
そういうことの大切さが物語全般を貫いている。
相棒の馬場を言っていることと考えていることがまったく同じ(つまり、人間に表裏がない)キャラクターにしたのも秀逸である。
華奢な坊屋と体格がたくましい馬場。
頭脳派と体力派。
こういう組み合わせは古来から日本人の好きなコンビ。ドラマの『相棒』も原型はこうだった(そもそもの起源は牛若丸と弁慶という気がするが)。
この作品には他にも様々な形の“相棒”が登場するが、互いの相棒を信じられるか?ということがひとつのテーマにもなっている。


もうひとつのテーマといえる、愛する人を守ること。
愛する人を守れなかった男が誰よりも憎んだのは、加害者などではなく自分自身だった。
愛する妻を守ろうと偽装離婚までして自分に多額の保険金をかけ、身代わりとなった男…。
愛する人を守るって、それはいったいなんだろう?



夏焼雅殿、好演。
華奢な美少女というキャラクターが今回の役柄と見事に合っていた。
おしゃれなイメージのある彼女だが、今回の衣装はトレンチコート。事件を解決していくにつれて、寂しそうに見える細い背中が切ない。
雅ちゃんの魅力は実は背中なんだよ」
という某ヲタ氏の話を聞いたことがあるが、本作品でそれも納得。
今回の作品、おそらく彼女なしには成立し得なかった企画なのだろう。
ただ、夏焼殿自身はこれからたいへんかもしれない。
握手会で、
「何考えてるかわかる?」
…なんて質問するヲタが続出するんだろうなぁ…(笑)


須藤茉麻殿、怪演。
いつもニコニコ、他人に対しては好意的な家政婦。しかし、ひとくせもふたくせもありそうな家政婦。
ごくごく最近だけでも、『数学女子学園』→『ハンチョウ』→そして今作品と、女優としてステップアップしていく様をリアルタイムで観られることの幸せを感じさせてくれた。
なお、劇中の安莉の、
「…ってね〜」
というセリフの語尾の言い回し。モデルは鉄炮塚雅よ殿(散歩道楽)らしい*1


宮本佳林殿、快演。
ウザいんだけど、とってもいいコ、というややこしいキャラクター。
彼女がウザければウザいほどいとおしくなる、そんな微妙な役柄を見事に演じていた。
もちろんこれには、悪党ながら娘を溺愛している父親役の中神一保氏の好演という絶妙なアシストが効いているのだが、あれはあの年代でなければ表現するのが難しい。
作り手側からすれば、そんな“一瞬”を切り取って見せ、してやったりというところであろうか。


保田圭殿、安定。
出てくればもう安心というか、風格さえ感じさせる貫禄の演技。
「舞台では私、いつもモテモテ♪」
と、以前本人も言っていたが、今回も…。
歌の場面は「さすが」のひとこと。
劇中で唄う『ベビースモーク』(作詞:塩田泰造、作曲:石澤瑤祠)の歌詞はこちらに。
誰にも真似出来ない個性。
遺体安置所で元夫と対面する場面は本作品名場面のひとつ。
ラストのライブの場面、誰も座っていない客席の椅子にタバコが置いてあったのは、塩田氏曰く保田殿のアイディアとか。さすが。


舞台の冒頭のひき逃げの場面、照明と音響と役者の演技だけで表現される。
なるほどなぁ…と感嘆し、同時に舞台ならではの醍醐味に興奮した。
ただ、全般的にいい舞台なんだけど、事件の真相があまりにも切なく、哀しいので、二回以上観るのはちょっと辛い。
こういう感覚は初めてである。




――大人の麦茶第十九杯目公演 『B・B〜bumpy buddy〜』、了――