南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

『キャッツ♥アイ』感想

まずAパターン。
脚本:太田善也(散歩道楽)、演出:鈴木早苗(TBSテレビ)。
予想通りのオーソドックスな展開で、長い原作を2時間ほどの舞台にする教科書のような作品。
それでいて、ところどころに脚本:太田氏らしいセリフのやりとりで笑わせるくだりがある。
全般的には笑いあり涙あり、アクションにダンスに歌…と盛り沢山で、『キャッツ♥アイ』を知らない人にも楽しめる内容。
知っている人にはやや物足りないだろうが、いわばダイジェスト版だから致し方ない。
永石役:キムユス改めゴールド☆ユスリッチ氏(散歩道楽)、今回も(笑)怪演。


一方、Bパターンの方は『キャッツ♥アイ』外伝というか、スピンオフ作品というか。
脚本・演出:塩田泰造(大人の麦茶)。
天童寺家のお嬢様:美果(菅谷梨沙子)の頼みで、キャッツ♥アイに狙われた秘蔵の絵画を守ることになった新米女子探偵2人の奮闘。
リコ(熊井友理奈)にはある特殊能力があり、チコ(中島早貴)には他人に真似できない特技があり、共に不完全ながらその二人が組むことによって…という展開。
絵画と天童寺家には秘められた過去があり、また、リコにも人には言っていない秘密がある。
崩壊した家族を再生させようとするダメ人間たちの奮起、と、まるで太田作品(『かば』とか『ストロンガー』とか)のお株を奪う内容。
物語のキーマンである、美果の母:さやか役の鉄炮塚雅よ殿(散歩道楽)の熱演が際立つ。
本家キャッツ♥アイの登場場面はカッコいい演出。
チコ(中島)が瞳(矢島舞美)に「汗すごいわよ!」とか、浅谷刑事(清水佐紀)が「黄色」に強く反応するところなどのベリキューならではの笑いのツボは、さすがにベリキューを知り尽くした塩田氏ならでは。
さすがに「許してニャン」は、ベリキューで“キャッツ”アイなら出て来ない方が不思議なのであまり驚かなかったが。
また、リコの「元・悪徳警官の娘」という設定は、塩田氏の前作『B・B〜bumpy buddy〜』における東倉静(宮本佳林)が、ひねくれずにまっすぐに成長した姿(よかったなぁ(泣))…という捉え方も出来る。


ただ、物語終盤はやや強引な印象。
リコが暴力団相手に立ち回りを見せるのはちょっと違和感があったし、リコとチコがさやか(鉄炮塚)のためにひと芝居うつくだりは「うまくいきすぎ!」の感。あの二人のキャラクターならば、多少失敗しつつも結果オーライで、なんとか成功させる…という方が面白かった気がする。


しかし、共に不完全な能力をもつリコとチコが一緒になると大きな力になる、という「1+1が5にも10にもなる」チームワーク的なものは、ある意味ハロプロの魅力の真髄といえるかもしれず、そのあたりにテーマをもってきた手腕はさすが。
この作品がもしAパターンだけだったら少し物足りなかったろうし、Bパターンだけなら「え?これ、『キャッツ♥アイ』?」てな印象だったろう。この両パターンがあったからこそやる意味があった、といえる。
だからやはりこの舞台は、Aパターンを観ておいてからBパターンを観るというのが正しいのだろうと思う。
両パターンのサイドストーリーともいえる、浅谷刑事(清水佐紀)をめぐる恋の行方も重要なスパイス(清水殿、好演)。
願わくば、いつの日か再演して、塩田氏作演出のA、太田氏作演出のBを観てみたい。




――『キャッツ♥アイ』、了――