南アルプス天然少年団

南アルプス天然少年団

通りすがりの傍観者の足跡。

淡路少年野球団

私事でたいへん申し訳ないが、筆者の父は、阿久悠氏と同郷(兵庫県洲本市=淡路島)である。


…と、書くと、筆者の父は怒り出すはずだ。


「あいつは、違う。洲本じゃない」


実際に、阿久悠氏のことを尋ねたら、こう言われたことがある。


今は洲本市に合併されたのであるが、阿久氏の当時は、津名郡鮎原村であった。
(鮎原村はのち合併して津名郡五色町*1。2005年、津名郡五色町を除く5町が合併して淡路市に。五色町は2006年に洲本市と合併)


「でも、学校一緒でしょ?」
「そりゃ、他になかったからな」


というように、出身校も同じで、筆者が「阿久悠」という人物の顔を知ったのは、子供の頃、父のところへ送られてきた同窓会誌に載っていた氏の写真入りのインタビュー記事だったように記憶している。




『ヒットメーカー・阿久悠物語』*2のなかで、阿久氏が東京に出て来るまで餃子を知らなかったエピソードが出て来るが、そりゃそうかもしれない…と思う。
淡路島は魚が豊富にとれるので、餃子なんか食わなくて良かった…?
ちなみに、筆者の父は、結構な歳になるまで、焼いた魚、というものを食べたことがなかったらしい。






また、淡路島は、阿久氏の著作『瀬戸内少年野球団』(1984年映画化。篠田正浩監督、夏目雅子主演)にもある通り、野球の盛んな土地で、戦前はジャイアンツのキャンプ地でもあった。
(だから関西圏のわりに一定の年齢以上の世代にはジャイアンツファンが多い)。




もっとも、阿久悠氏は生粋のタイガースファンである。
西武ライオンズの球団歌『地平を駈ける獅子を見た』(作曲:小林亜星、歌:松崎しげる)は、阿久氏の作詞によるものだが、作家であり、熱心なタイガースファンである玉木正之氏によれば、

あく・ゆう【阿久悠
作詞家。作家。映画化もされた小説『瀬戸内少年野球団』の作者。藤村富美男以来のタイガース・ファンでもある。そのため、西武ライオンズの応援歌を作詞したところが、♪ミラクル元年奇蹟を呼んで…と、まるでタイガースの応援歌のようになってしまった。
(中略)
この作詞家は、どうしても奇蹟を必要とするタイガースへの思い入れがあふれるあまり、詞で表すべき対象物の性質を見誤るという、ベテランらしからぬミスを犯したものともわれる。


玉木正之・著『プロ野球大大大事典』=1986年刊=より)



それはさておき、阿久氏も、筆者の父も、叔父も、みな野球部員であった。


というか、この野球部、監督をやっていたのが筆者の祖父なのである(笑)。
どうも阿久氏は地味であったらしく、親戚一同、当時の阿久氏の記憶がないために、祖父が阿久氏に指導したのかどうかは、よくわからない。




監督の息子である筆者の父は、どうも無理やり入部させられたらしい。
そのせいか、いまだに父は野球に対してアレルギーがあるようで、高校野球プロ野球も一切観ない。
どうも甲子園にも行っているらしいのだが、
兵庫県だから、あんなものは予選で行けた」
と言うばかりで、にべもない。


まだしもやる気があったのは叔父の方で、当時としては珍しい右投げ左打ちの選手であった。
というよりも、叔父に言わせれば“日本初”なのだという。
「だから、イチローの原型はオレや」
と、言う。


“日本初”が本当かどうかはわからないが、新聞の取材を受けたこともあるらしいので、ごく初期の選手であるという栄誉は、認めてあげてもよいのではないかと思う。
 
 

*1:司馬遼太郎氏の小説『菜の花の沖』の主人公・高田屋嘉兵衛の出身地。だから嘉兵衛もまた、現在では洲本市出身、になってしまった

*2:この作品、淡路島でロケはしていないが