南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

『夢落ち』感想

(公演終了につき、ネタバレ多数。未見でDVDを楽しみにされている方は、以下、読まないか、ななめ読みしてくださいまし)


この作品も『刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ』と同じく再演モノ。
というわけで、安心して観られる作品。
作・演出の白柳力氏も観客に配布された挨拶文に書いていたが、“夢落ち”というのはタブーな物語の終わらせ方。それをわざわざタイトルに持ってくるあたり、むしろ自信を感じさせる。
もちろん、タイトルの“夢”というのには、眠っている時に見る夢と将来の希望だったりする夢とが混じっている。



久しぶりに再会した中学時代の同級生たち。
しかし、みんなそれぞれ問題を抱えていて――。


…というのはよくあるストーリーの発端。
同級生じゃなくて姉妹だったけど、『かば』もそうだった。
しかし、この作品が変わっているのは、それが夢の中の出来事であること。
夢を自由に操れる“スーパードクター”こと白鳥(=同窓会幹事)によって夢の中の同窓会に集められた同級生たち。
白鳥の要求は、
「お前ら、(現実の)同窓会に出ろ!」
しかし、集められた彼ら彼女らは、それぞれ同窓会に出られない事情を抱えていて…。
出席を拒否すれば一生夢の中をさまよわされることになる。それが嫌ならば、白鳥との勝負に勝たなければならない。
その“勝負”とは、中学時代の運動会と文化祭、そして部活のリベンジだった…。



中学生くらいだと学校の中だけがすべての天地。
だから学校での成功も失敗も、人間関係も世界のすべて。
同窓会というのはその世界、社会性の中に再び戻っていくことになるわけで、だから「同窓会には出たくない」という人は当然出てくる。
それに、久しぶりに旧友に会うというのは、大なり小なり一種の気恥ずかしさを伴うもの。
これが個別に会ったりすると、古い同志に会ったようでホッとしたりするものなのだが…。



ムラタメグミ殿は、同窓生の一人・榎本文子役。
30歳を目前にして、白馬の王子様を待ち焦がれている女性。
同窓会に出られない理由も、出席するつもりがいつも道に迷っているから…という、他の同級生たちほど深刻ではない理由(ある意味いちばん深刻なのかもしれないが…)。
だから彼女の場合は、「次からちゃんと出席します」と白鳥と約束して夢から醒まさせてもらえばいいのだが、みんなと一緒に夢の世界に残るのは、憧れの人:剛が居るから…という風に解釈したい。


実はAキャストとBキャストで、見た目でいちばん違うのが、この榎本役だった。
金曜日の公演までは観客にキャスト表が配布されなかったこともあり、筆者、先にBキャストを観て、Aキャストでムラタ殿がどの役をやるのかわからなかった。
たぶん榎本だと思ったけど、晴美(ワケありの美女役)かな?というのも捨てきれず。
Bキャストの榎本役:樋口好未殿が小柄な人(身長150cm)であったこともあり、えっ?セーラー服着るの?…と(笑)
でも樋口殿、実年齢ではムラタ殿より年上だったりするのだが(石黒彩殿と同い年)。
ちなみにテニスの名手でもあられる(元高校日本代表)。
だから、夢から覚める場面、ファンシーケース風のファスナーを開けて出ていくが、閉めようとして身長が足らずに閉めきれず、残った剛に「閉めて〜!」と頼むところ。
ここは背の低い樋口殿の方が活きる。


一方のムラタ殿はといえば、相変わらず表情の変化が秀逸。
「舞台役者は顔がデカい方がいい(後方の客席からでも表情がよくわかるから)」なんていわれるが、この人の場合、顔も小さいし顔のパーツも小さいのに表情がわかりやすいという不思議な特性をもっている。
『かば』シリーズでも数々の“顔芸”で楽しませてくれたが、そもそも舞台に向いている顔なのかもしれないし、もしくは、かつて「新幹線の東京から新大阪まで、ずっと鏡で自分の顔を見ていた」なんてエピソードが暴露されていたが*1、そういう日頃の研究成果(?)といえるかもしれない。


但し、この役、果たしてヒロインかというとそうでもなく、芝居全体で考えれば、むしろ晴美の方がヒロインにふさわしいかもしれない。



それと、AとBとで違いが大きいのが白鳥役。
この白鳥という敵役が魅力的なのは、彼自身が同級生たちと遊びたくて遊びたくて仕方なかったんだろうな…というのが垣間見れるところ。
とくに、ライバルだった剛とは「勝った」「負けた」を楽しみたかった(だから、負けても深刻なほどは悔しがらない)。
「お前ら、もっと俺と遊んでくれよ〜」
「ほ〜ら、同窓会も悪くないだろ?」
だから、もともと、同級生たちを夢の世界をさまよわせることは彼の本意ではなかったはず。
Aキャスト:加藤栄一郎氏の力強い感じの白鳥もいいし、Bキャスト:西岡大輔氏(こちらスーパーうさぎ帝国)のひょうひょうと人を食った感じの白鳥もまたいい。
配役を見ていただくとお分かりになるかと思うが、劇団員がAB両キャストにきれいに分かれている。
これを合わせた形が初演のオリジナルキャストに近い形なのかな、と。*2


ちなみに、Bキャストでは無く、Aキャストでのみあったセリフ(おそらくアドリブだが)。
受験生の健太郎が英単語を暗記しようと単語帳をめくるくだり。
「『Dog』→『犬』! 『Cat』→『猫』! 『エレファント』→『カシマシ』! 『メロン』→『記念日』!」
のところ。
Bキャストでは『エレファント』→『カシマシ』でオチ。



さて、芝居を見終わって、同窓会に出たい気持ちと出たくない気持ちが半々。
でも、この同窓会の良さと悪さ、少なくとも同窓会というものを思い出させてくれただけで、この舞台は成功だといえると思う。


いや、筆者もまた、白鳥の術中にハマったのかもしれない…。




――『夢落ち』、完了――
 
 

*1:BEAT MOTION』(NHK-BS 2002年放送)で大谷雅恵殿が発言。

*2:初演の写真を見る限りでは、今回Aキャストで晴美役だった佐々木いつか殿が、東野みゆき役だったようである。