南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

『恋文横丁2010』感想


「恋文横丁」とは、戦後から朝鮮戦争の時期にかけて、米兵相手に商売をしたお姉さま方のラブレターを代書する店がこの周辺にあり、それをモデルにした丹羽文雄の小説『恋文』のヒットにより(のちに田中絹代監督=日本人二人目の女性監督=で映画化)、この名がついたという。
筆者はこの小説も読んでないし映画も観てないが、弘兼憲史氏の自伝的漫画『ホットドッグ・ララバイ』(舞台は岩国だが、主人公の父親がそういう代書屋をしている)を読んでいたのでなんとなくわかる世界。


ついでながら、丹羽文雄という人は長命した人で(2005年、100歳で死去)、晩年に介護をしていた孫の一人が最近のハロプロ関連舞台・TV・映画(『マノスパイ』『ファッショナブル』『ケータイ刑事MOVIE3』…)のプロデューサー:丹羽多聞アンドリウ氏(BS-TBS)。「多聞」という名も丹羽文雄命名とか。
多聞アンドリウ氏には「作家・丹羽文雄99歳の日常」(『月刊文藝春秋』)という一文がある。


その恋文横丁の地で、どこか昭和の匂いのする、でも平成の世でも不変の、“恋文”にまつわるショートストーリー三題。
いずれも興味深いストーリーで、とくに第三話はグッときた。
相思相愛の二人が結ばれなかったのは本人たちのせいではないために、とても哀しい。
「10年前、君に貰った手紙を返しに来た。その手紙のおかげで10年間頑張って生きてこれた。ありがとう…。あっ、でもそれコピーだから。本物はまだ持ってるから…」
なんだかいろんな想いが詰まっていて、切ない。
元彼役は三宅法仁氏。
『ネムレナイト2006』保田圭殿と共演。ミハル役というから、柴田あゆみ出演『2008』では和泉宗兵氏が演じた役だ。
椎名茸ノ介氏が出演する第二話は、バク宙をやりたがる椎茸氏がいつバク宙をやるのかが見どころのひとつ。
体操なんかからきし出来ないのに、体操のお兄さんになりたい役。だけど、『かば3』MELON GREETINGで披露したり、田中れいな殿が言っているように椎茸氏がバク宙が出来るのはわかっているわけで…。
でも今回は、なにぶん狭いカウンター前。どうなるんだろう?…とハラハラドキドキ…(笑)
また、第一話〜二話が居酒屋の客のストーリーで三話が店員のストーリーという構成も綺麗だったと思う。


店内の雰囲気もマッチしていて…というよりも、この地だからこそこういう店内の雰囲気にして、だからこそこういう内容のお話をってことなんだろうけど…、それもそのはず、この店舗のデザインは『かば』『ネムレナイト2008』『レモンスター』『すこし離れて、そこに居て』『タイガーブリージング』などの舞台美術を担当された田中敏恵氏が手がけたものだという。



大谷雅恵殿は実質、『ENDLESS LOVE』を唄い、ライブのPRをしに来た形。
芝居の合間に、中島みゆきが唄われるなか、場違いになるのでは?…と危惧していたが、切ない片想いの歌だけにむしろ違和感なくハマっていた。
なんだかまるでこの日ここで唄うために作ったかのような…。
衣装・髪の色もそうで、例の衣装にレッドヘアー
知ってる人なら美羽殿ならずとも「大谷雅恵だとすぐわかる」かもしれないが、ああいう場で見ると、芝居を観に来たアングラ演劇好きの女性に見える。
これまたここに来るために買い、染めたかのような…。
終演後、ライブの日程と場所をもう一度教えて…と本人に直接訊いている非ヲタ(と思われる)の方もいらっしゃられたので、今回の“ふらっとゲスト”、まずは大成功といっていいのではないかと思う。



ともあれ、貴重な経験だった。
アンケート用紙に思わず「ありがとう」と書いてしまった。
機会があれば、是非また観たい。




――『恋文横丁2010』、了――