南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

舞台版『世界のどこにでもある、場所2』感想

(公演終了につき、ネタバレあり。未見でDVDを楽しみにされている方は読まないか、読んでも斜め読みしてください)



来年公開の映画版大森一樹監督)のスピンオフ作品とのこと。
なにぶん本編が公開前なので、パンフレットに「上村乃里子役:松村真知子とシンシア役:山口麻衣加が映画版と共通の役」だと記載されている以外では、どのへんが“派生による副産物”なのかは今ひとつわからない。



舞台版の概要・写真などはこちらに。



解離性同一性障害、いわゆる多重人格を扱った内容で、要因(幼少時における虐待)、症状(自意識を守るために他の人格を生み出す)共に、多重人格を扱ったものとしては定番的な内容。
主人公が生み出した人格たちが、脳内で会議を開いて話し合うというのは面白い。


脚本は同じくムラタメグミ出演作品『夢落ち』の作・演出だった白柳力氏(こちらスーパーうさぎ帝国)、脚色・演出は映画版に役者として出演している大関真氏(スーパー・エキセントリック・シアター)。
映画版の大森一樹監督も「作・総合演出」としてスタッフに名を連ねている(どの程度関わっているかは不明)。


役者陣はSET勢が核になっているので安定感がある。
ムラタメグミ殿は主人公が生み出した人格の一人を演じている。
幼少時に主人公が父親に虐待される中、弟を残して逃げていた兄を憎み、毒づく。
このため、終始叫んだり怒鳴ったりしている芝居である。
でも、どこかユーモラスなのは、この人の持ち味が充分生かされている役柄だったと思う。


他に、『夢落ち』Wキャストでムラタ殿と同じ榎本役を演じた樋口好未殿。
Wキャスト双方を観た身としては、この二人の共演は嬉しい。
また、別人格の佐藤くん役を演じた角野哲郎氏は、その『夢落ち』のこちうささんの元劇団員で、白柳氏とは久々の一緒の舞台だったという。
そんな役者陣の軸となるのは、第三舞台出身、長野里美殿。
第三舞台といえば、大高洋夫氏(『すこし離れて、そこに居て』)や筧利夫氏(『何日君再来』『すけだち』+『ハロモニ。『メディア見たもん勝ち!ゼルマ』)と、ハロー勢との共演が多い。
また、ご主人の上杉祥三氏は『わが歌ブギウギ〜笠置シヅ子物語〜』(2006年)で中澤裕子殿の旦那さん役であった。*1
長野殿、ご自身のブログで述べられているように「コメディーをやりたかった」そうで、さすがの好演であった。



脚本も演出もきちんとしていて、役者もみんなうまい。
しかし、それなのにどこか物足りない、凡庸な印象を受ける舞台であった。


せっかく舞台が教会なのに、公演時がクリスマスの時期という雰囲気作りにしかなっていない。
せっかく演劇の稽古と多重人格という食い合わせの良さそうな素材が並んでいるのに、その二つが絡んでこない。
役者の一人の到着が遅れている、というせっかくの設定がその後の展開に生かされていない。
なすび氏演じる『元劇団員の神父』というせっかくの役柄が不発に終わっている。
演劇とか役者というのは、疑似多重人格ともいえる。
筆者、これは「多重人格者が芝居の稽古に加わったらいろんな人格が出て来ちゃって大変なことに…。でも、何かのきっかけによって問題が解決していく…」みたいな展開だと思ったので、少々期待はずれだった。
思うに、スピンオフだから本編に沿ってという制限があり、あまり冒険は出来なかったのだろう。
しかしこの内容じゃ、会場でも売っていた(大森監督のサイン入り)が、映画版のチケット買う気にはならないよなぁ…。
監督のサイン入りって言われても、ねえ…。


また、『夢落ち』と比較するとわかるのだが、とくに観客を笑わせる場面に於いて、白柳氏の脚本と大関氏の演出がうまくかみ合っていないのではないか?という印象も受けた。



ところで、医学は必ずしも万能ではなく、結局は本人次第だという展開。
このあたりは医大出身、かつて“ヒポクラテスたち”であった大森一樹監督の意向が入っているのかいないのか、ちょっと気になるところではある。




――舞台版『世界のどこにでもある、場所2』、了――
 
 

*1:この舞台、杉浦太陽氏も出演している。