南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

『降臨Fight』感想


関ヶ原主戦場跡(2000年10月8日。「関ヶ原400年祭」当日筆者撮影)



(公演終了につき、ネタバレあり。未見でDVDを楽しみにされている方は読まないか、斜め読みしてください)




バーチャルオンラインゲーム「降臨Fight」は、プレーヤーがシンクロした戦国武将を降臨させ実際に戦わせるゲーム。
武将たちは実在の人物とリンクしており、降臨した武将をゲーム内で殺すとその武将は歴史上からも消えるというシステム。
長門海(川村亮介)はこのゲームをプレイ中に石田三成(西村ミツアキ)とシンクロし、三成が降臨、歴女である姉の市子(創木希美)は大喜び。
三成は実際の関ヶ原合戦後、自害した妻・おりん(酒井瞳戸島花 Wキャスト)のことが気になっていたが、海の彼女のさくら(酒井・戸島二役)がおりんに生き写しであった。
各所で降臨した西軍諸将は、同じく降臨した東軍諸将を殺せば歴史上からも消えるので、歴史は変わって実際の関ヶ原の合戦も西軍が勝つことになると、勝利を目指す。
ところが、政治家の仙石(貴哉)や蓮砲(クシダ杏沙)、それにゲーマーのシルクはこのゲームを利用し、歴史を書き換えることによって自分たちの思い通りの世界に変えようと企んでいた。
ゲームの設計者で、竹中半兵衛の末裔にあたる未来人・竹中コナン(中村まい)は、彼らにゲームを悪用されることを怖れ、様々な手をうつが…。




この作品のタイトルと内容を知ったのは、昨年秋のASSH公演『世界は僕のCUBEで造られる』のパンフレットに記載されていた次回予告を見たことによる。
『20XX年。携帯で歴史上の武将を自らの体に「降臨」させて戦う、リアル格闘ゲーム「降臨Fight」が大ブームとなっていた』


正直、
(うわぁ…)
と、思ってしまった。




コウイウノハタイテイツマラナイ…。




こういうのは、他人がやっているロールプレイングゲームを横で見ているようなもので、よほど面白い展開でないと…。


というわけで事前の期待値が低く、それを裏切ってくれる展開を期待したわけであるが…。


登場する武将については、いわゆる歴女の皆さんに人気の高い武将を集めちゃった感。
よく考えると登場する武将のうち、関ヶ原の主決戦場に居たのは石田三成大谷吉継徳川家康本多忠勝の四人だけ。
だから関ヶ原で主力となって奮戦した宇喜多秀家福島正則島左近も、それに寝返った小早川秀秋脇坂安治も出て来ない。
でも、それはまだいい。
関ヶ原の戦いというのは直江兼続前田慶次が東北で、真田幸村信濃で、それぞれ東軍・徳川方と、九州で加藤清正が西軍と戦っていたように、日本全国を巻き込んだものだったから。




↑「関ヶ原400年祭」にて、石田三成本陣跡に布陣する石田家家老・蒲生郷舎隊(2000年10月8日。筆者撮影)



↑「関ヶ原400年祭」に特別参加した長野県上田市・信州真田鉄砲隊の方々。火縄の準備をしているところ(2000年10月8日。筆者撮影)



服部半蔵(正成)は関ヶ原当時、既にこの世を去っていたはず(1596年没)」
…というのも、息子二人(正就・正重)も通称は半蔵なので、劇中に登場するのは息子のどちらかだと思えばいい。


どうしてもわからないのは黒田官兵衛で、なんで徳川家康の軍師をやってるんだか謎。
これはちょっと歴史を知っている方ならば、どれだけ不可思議な設定だかおわかりになるはず。
あの役、なんで本多正信じゃないんだろ? 官兵衛じゃなく息子の長政の方だったらまだわかるんだけど…。
だからこれ、スポンサーサイドから「この武将を出せ」なんていう指定があったんでこんなことになっちゃったんじゃないかと、邪推してみたくもなる。
というわけで、そもそもこのゲーム、史実とはリンクしていないのだった。




↑五明稲荷・銀杏の木(岐阜県垂井町竹中氏陣屋跡そば。黒田官兵衛が敵方に幽閉されていた時期、竹中半兵衛に匿われていた官兵衛の子・松寿丸=のちの黒田長政=が父の無事を祈って植えたとされる。2000年10月7日。筆者撮影)



で、せっかくイケメンの皆さんを配したのに、降臨した戦国武将たちのやることといったら…。
三成や兼続たちは寄ってたかって加藤清正をなぶり殺しにするわ、本多忠勝を高速道路に誘き出して車にはねさせるわ、なかなかの卑怯者ぶりなのである。
そもそも、
「東軍のやつら殺しちゃえば歴史上からも消えちまうから、西軍が勝ったことになる」
…ってそれ、暗殺してるのと一緒じゃないかと。
やっていることは敵役である仙石やシルクと同じで、彼らもまた、このゲームを悪用しているのである。
さらに、東軍の徳川家康伊達政宗に至っては極悪。
徳川家康は、劣勢になるや、甘い言葉で三成たちを話かけるが、実はその裏で…って、『仁義なき戦い』の金子信雄か…!(笑)
伊達政宗は女を楯にとるわ、忠実な家臣・片倉小十郎を殺すわと、なかなかの非道ぶり。
それこそ今回の被災地の方々が見たら、不愉快な思いをされるのは確実。
宮城県民の方々の伊達政宗に対する思いを侮ってはいけない。



その政宗を罵るのが、甲斐姫役:大谷雅恵殿。
武蔵国忍城主・成田氏長の娘で、東国一の美女、しかも武勇にも秀でた姫。のち豊臣秀吉側室となる(甲斐姫については記録が乏しく、実在を疑う説もある)。
忍城攻防戦を描いた話題の小説で映画化もされる『のぼうの城』でもヒロインとして登場するので、ちょっとタイムリーな役柄。
但し、関ヶ原にはほとんど関係がない。
殺陣はだいぶ板についてきた感じ。
観た限りでは、膝を怪我していたことは感じられなかった(痛かったのかもしれないが…)。


なお、今回三成の盟友・大谷吉継役であった笠原紳司氏が、映画『のぼうの城』の方に佐竹義宣役で出演されるらしい。
義宣といえば三成と親しく、忍城攻防戦でも三成軍に参加していた武将。関ヶ原前には一時期三成を匿ったこともある。
よくよく三成に縁のある役者さんである。




関ヶ原大谷吉継墓(右)。左は吉継の家臣で、吉継の介錯をした後に討死した湯浅五助の墓(2000年10月8日。「関ヶ原400年祭」当日筆者撮影)



流れで、女性陣について。
三成の妻・おりん。
演ずるは酒井瞳殿、戸島花殿のWキャスト。
大谷雅恵殿も述べておられるが、奇しくも元ハロプロ、元AKB、現役アイドリング!!!の共演となった。
筆者が観劇したのは“酒井おりん”の回であったが、この人時代劇顔で着物姿が抜群に似合う。
声の通りもよく、それでいて少し儚げな声質がこの役に合っているように思われた。


実際のところは、石田三成の妻の名は、劇中のセリフでも出ていた法名の「皎月院(こうげついん)」がわかるのみで不明である。
劇中では「おりん」となっているが、この名は大河ドラマ『葵 徳川三代』(脚本:ジェームス三木。おりん役:高橋恵子)が初出なので、ジェームス三木氏の創作かと思われる。
豊臣秀吉家臣・宇多頼忠の娘で、劇中、彼女に瓜二つの現代の女性の姓が「宇田」なのは、ここからとられたものであろう。
また、服部半蔵配下のくの一でありながら三成を愛してしまい、抜け忍となった初芽(佃井皆美)については、司馬遼太郎『関ヶ原』に登場する初芽がモデルかと思われる。
徳川方?から送られた間者(実際にどこからの間者だったかは小説のラストにわかる)でありながら三成を愛してしまったヒロイン。
TBSで大型ドラマとして製作された際(1981年。1996年に司馬氏の追悼番組として再放送。DVDあり)には松坂慶子殿が演じている。但し、原作とはやや違った設定。




そして、やはりゲーム「降臨Fight」に戻る。
「武将を殺すとその武将は歴史上からも消える」という、誰の為なんだかよくわからない設定は、普通にこのゲームを楽しもうとするプレーヤーには関係がないはずで、このゲームを悪用する者にのみ必要な設定。
つまり、物語に悪役を登場させる都合上の設定であることがわかる。
ところが、物語後盤になると、「ダウンロードすれば元に戻る」とか…。
なんだかなぁ…。
しかも、何故か殺された東軍諸将についてはダウンロードされない。
また、ゲームを悪用して理想の国家を作ろうと企む政治家の仙石や蓮砲にしても、再び徳川の世になればどのあたりが彼らにとって都合よくなるのか説明不足だし、「俺の思い通りに!」というゲーマー・シルクも結局何がしたいんだか目的が不明。
単なる狂人として解釈すれば楽なんだけど。



ASSH作品は『刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ』でも『世界は僕のCUBEで造られる』でもそうであったが、物語後半で前半の設定をチャラにされて拍子抜けさせられたり、敵役のキャラクター設定が不完全であったりというのは相変わらずであった。





竹中半兵衛墓(岐阜県垂井町禅幢寺。竹中氏陣屋跡隣。2000年10月7日。筆者撮影)





――『降臨Fight』余話につづく――