南アルプス天然少年団

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通りすがりの傍観者の足跡。

散歩道楽プロデュース ドリームダン第5回公演『僕に似合いの身体』・感想

たいていの場合、芝居の観客というものは、立ち上がりから様子をうかがいつつ、
(これはどんな内容のお話なんだろう…?)
と、探ってゆくものである。



冒頭、スーパーで“なぜか”軍手を万引きした男・草刈(安東桂吾)。
おっかない店員(ヒルタ街)に捕まるものの、“なぜか”店長(松井基展)や他の店員たち(保田圭、菊池美里)に優しくされ、そのスーパーで働くことに…。
“なぜか”はまったく説明されないまま、話はスーパーにまつわる人びとの人間模様へと展開してゆく。
スーパーは近々社員旅行の予定があって、その間休業するので工務店に修理を頼んでいる。
スーパーの人々は、社員旅行に行く行かないはあるものの、それぞれに思惑があって、その日程に臨もうとしているのだが、工務店の男(郷志郎)にも実はある思惑があって…。
実は、スーパーの排気口は、近くにある監獄とつながっていて…。
後半、囚人たち(並木秀介、キムユス、國重直也、川本裕之)が出てきて脱獄を企てるあたりから急展開。
銃撃戦は始まるわ、筏は出てくるは…、このあといったいどうなるのか全くわからなくなった…(笑)



こういう芝居は、
「なんでそうなるんだ?」
などと考えちゃダメなんだろう。
舞台上で起こる出来事を楽しんでいくしかない。


なんで草刈さんは渚(保田圭)が好きになったんだろう?
なんでフミちゃん(菊池美里)は草刈さんに好意を持っているんだろう?
なんで鳳さん(ヒルタ街)は店長に…?


いや、好きなもんは好きなんだ。
理由なんかいらない。



また、渚が彼氏(立浪伸一)にダマされていく過程がテンポよく描かれたりするあたりはブラックユーモアの趣き。



全般的には役者個々の持ち味、そしていろいろな劇団やら団体やらから役者が集まっているだけあって、様々なコラボレーションが楽しめる舞台だった。
保田圭‐菊池美里(『すこし離れて、そこに居て』)」←仲のいい同僚役
並木秀介大人の麦茶)‐郷志郎(散歩道楽)」←兄弟役!
なんて組み合わせ、見たかったものなぁ…!


保田圭殿に関しては、この“個性あり過ぎる”役者陣に堂々と渡り合っていたことに素直に感動した。



そんななか、みんなに振り回される草刈役・安東氏(そういえば『ロマンチックにヨロシク』でも中島早貴殿に散々振り回される役だった)の、
「ぇぇぇ…!?」
という間が絶妙で、もうこれだけで2時間もってしまう。
(ラスト近くはそういう状況になると、もうワクワク♪)



でも、いいセリフもちゃんとあって、
渚「私、男運悪くて…。付き合った人、みんなダメな人だった…」
草刈「そんなことないですよ。男運いいからいろんな人と付き合えたんじゃないですか…」
にはホロッときた。
こういうセリフがあるからナンセンスな部分が活きてくる。
ナンセンスな部分があるからこういうセリフが活きてくる。



でも、ひとつ注文をつけるなら、なんだかんだで一生懸命頑張った草刈さん。
なにかひとつ、ほんのちょっとだけでいいから、ラストに希望あるセリフを言わせて欲しかったなぁ…。




――『僕に似合いの身体』、完了――。