南アルプス天然少年団

南アルプス天然少年団

通りすがりの傍観者の足跡。

『ネムレナイト2008』評

芝居の内容自体は、何度も再演されているものなので、今さら筆者ごときがどうこういう出来ではない。
つまり、完成されたお芝居。
例えば『かば』に比べても、芝居としての完成度は、こちらの方が上であろう。


表面上のヒロイン(都蘭=柴田あゆみ)と実質的なヒロイン(椿=森実友紀)とが並立するなかで、普通なら視点がブレてしまいがちになるのに、それがない、というのは台本がしっかりしていて、演出が巧い証拠だと思う。
(椿の登場の仕方が、一週間ほど前に観た『海援隊士物語』のヒロイン・坂本乙女の登場の仕方とほぼ同じ演出だったのには笑ってしまったが。まあよくある演出ではある)


ひとつひとつの場面での役者の立ち位置というか配置が良く、構図として美しい。
観ていて快感であった。
このあたりは、演出の塩田氏が映像出身であることによるのかもしれず、細かい仕草や小道具を使った演技が多いのもそれと関係しているのかもしれない。
(後方の客席から観ると、ちとわかりにくいという難はあるが)


但し、随所に「巧いなぁ…」と唸るところはあるものの、とりたてて感動はしなかった。
筆者がこういう主題に対して鈍感なだけなのかもしれないが、感動するには、主題の表現が(例えば『かば』に比べれば)どうにも、“薄っぺらい”のである。
それは、登場人物たちがセリフで連呼するように、愛情表現の行き先が「セックス!」に偏りがちな為かと思われる。
もしくは、セリフで「セックス!」を連呼することによって、主題をより薄っぺらく印象づけてしまっている。
この点が、芝居としての完成度が低いはずの『かば』に比べて劣るように感じるのである。
恋愛的に未熟な二人のヒロインに対して、経験を語れるはずの未亡人・夢子(尾上綾華)に、もう一歩踏み込んだセリフがあれば、印象はかなり違っていたかもしれない。


ただ、べつに感動なんか無くたっていいじゃないか、芝居として面白ければ…、ということであれば、べつに何の問題もないのである。