南アルプス天然少年団

南アルプス天然少年団

通りすがりの傍観者の足跡。

えいがのかんそう

http://www.ada-movie.net/


ストーリーについて、詳しくはHPの方を見ていただくとして、まず、簡単に構成と配役を説明すると――。
第一部『戦慄篇』が佐藤綾乃主演(渡辺夕子役)、第二部『絶望篇』が仙石みなみ主演(市川美保役)で、対立する二人のそれぞれの立場から描くという構成。
第一部はドキュメンタリータッチ、第二部はドラマ仕立て。
主人公二人が通う塾の「Aクラス」のクラスメートたち、夕子の親友役に舞川あや伊藤麻希(以上、LinQ)。
美保の親友役に相楽樹
ほか、クラスメート役が古川小夏アップアップガールズ(仮))、芽依(lyrical school)。
その他の塾生で、塾のPRビデオに登場する(だけな)のが森咲樹佐保明梨関根梓新井愛瞳(以上、アップアップガールズ(仮))。
同じく塾のPRビデオに登場する(だけの)アイドル役が、バニラビーンズとキャラメル☆リボン
美保を助ける謎の女に村上東奈
アプガ勢についてはなんのことはない。学生組がメインキャストから外された形である。


演技的には、過去に主演舞台もあり、演劇の聖地・紀伊國屋ホールの舞台にも立ったこともある経験豊富な仙石元リーダー(仮)以下、ハロプロエッグ時代よりヲタの信頼も厚い、名うての演出家たちによる演技レッスンを受けているアプガ勢、それにこれもまた主演舞台経験もあり、NHK朝ドラに出演経験もある女優本職の村上東奈殿は計算出来る存在。
そんななか、役割は地味ながらも、LinQ勢の好演が目をひく。
バニビ・キャラメル☆リボン・それに芽衣殿は見せ場を与えられるどころか、演技どうこう言えるほどの場を与えてもらえなかった。
今作中の白眉は相楽樹殿。美保と最後に別れるシーンの切ない笑顔は今作中最大の収穫である。


次に、ストーリーの舞台設定――。
廃校を利用した閃光塾という進学塾が舞台。
閃光塾は特殊なシステムを使って学力を上げ、一流大学への進学率が高い。
閃光塾に入るのは難関で、相応の学力がいる。
クラスは学力に応じて、A〜Dクラスに分けられている。
月謝は17万円、システムの機材費が70万円。
さらに塾生には、その機材を外部の学生に売らなければならないノルマがある。
機材を売った数がその塾生の塾内でのヒエラルキーのもととなる(Aクラストップは夕子である)。
塾生が機材を売った売上金はおのおのプールされて、300万円貯まると大学への裏口入学の資金となる。結果、機材を多く売った塾生は志望校にことごとく入学している。
300万円に満たなかった塾生のプール金は塾長が着服している疑いがある。


では、以上の件について検証してみる。


1)塾の月謝と機材費
夕子(佐藤綾乃)は母子家庭であり、そんな高額を払える家庭事情なのか?という疑問が生じる。
母親はおっとりした専業主婦風で、高給を得ている仕事をしているようには見えない。
といってもさほど生活に追われている風にも見えず、母娘の関係性も適当に描写されているだけなので、よくわからない家庭である。
2)機材売買のノルマ
これはべつに影でこっそりやっているという風なものではなく、堂々とおこなわれており、機材ををたくさん売った塾生は講師に教室で表彰される(キャバクラみたいなもんである)。
しかし、どんなに進学率が高かろうが子供にそんなことをさせている塾であれば、親は塾をやめさせるはずだし、社会的問題にもなるだろう。
それに、高校生が70万円もの機材をそう簡単に売れるものではない。機材を塾生以外の人間に売るよりも、塾に勧誘させて塾生を増やすというやり方の方が現実的で、その方が塾生も楽なはずで、塾側からしても月謝も取れるし同時に機材も売れるしで儲かるはずだし、塾長の着服金も増える可能性が高い(設定の矛盾)。
3)プール金の行方
300万円貯まると大学への裏口入学の資金となるので、機材を多く売った塾生は志望校にことごとく入学している…というが、そんなことが多くの一流大学で通用するのか?(設定に無理がある)


もしも、以上の設定が有効であるとしても――。
例えば、母子家庭の夕子が機材を売った売上の一部を貰っていて、それで月謝の足しにしたり生活費を助けているというのであればまぁ納得出来るが、そうではなく、夕子の売上もプールされている。
また、夕子は月に20個以上も機材を売っているので、プール金はとっくに300万円を超えているはずで、そうなら志望校への入学は確実なわけで、もうそれ以上売らなくてもいいはずである。
また、塾生のヒエラルキーが学力ではなく売上であるなら、学力に応じてA〜Dクラスに分けられている意味はなくなる。Dクラスの塾生が売上一番になる可能性だってあるのだから。
Aクラスの遥(相楽樹)が講師に反抗した罰としてDクラス行きを命じられるくだりがあるが、それは何の罰にもなっていない。遥はAクラスの学力を持っているわけだし、同じ機材を使用する勉強法であればなんの違いもないはずである。


他にも――。
遥(相楽)は塾の不正を知り、機材を売るのを拒絶しながらも何故塾に通うことに固執しているのか? 彼女の学力があれば、べつにこの塾に通わずとも一流大学に合格出来るだろう。
事件を証言する塾生(古川小夏)は、事件後に塾が再開の見通しが立たないことに関して「塾を信じていたのに裏切られた思いです」と語っているのに、塾の裏の不正についてはいろいろと知っている。彼女はいったい何を信じていたのか?(役柄設定の矛盾)。
授業風景が変わっていて、閃光塾の講師は教え方が特殊なので他の塾に再就職出来ないというくだりがあるが、それならそんな学習法が大学受験に対応出来るとは思えず、その学習法がそもそも大学受験に役立つのか疑問。
大体、学校ではなく、あくまでも行こうが行くまいが自由なはずの塾であるのに、講師が塾生に対して妙に威圧的であり、反抗的な遥を職員室に呼び出して彼女が泣くほど説教する…というのも妙な話である。
また、この塾の学習法を考慮すれば、機材を使用した学習法こそが学力の源なのであって、講師の能力はほとんど意味がなく、講師が塾生に威圧的にはなれないはずなのである。


さらに塾以外でも――。
夕子(佐藤)が美保(仙石)に命を狙われているのが明らかなのに、例えば警察の保護を受けるとか何の手立ても取られていないのは何故か?
美保は警察やマスコミに名前も顔も知られてしまっているのに、何故捕まらないでいられるのか?
夕子と行動を共にする女性ディレクター(泉妻万里)も、夕子のために改造銃を手に入れる(護身用ならまだわかるが、はっきりと美保を殺させるために、である)など、行動が不可解。いったい彼女はなにがやりたいのか?
それに、そうすれば自らも生命の危険にさらされるのは明白である(実際、いとも簡単に殺害されるのだが)にもかかわらず、撮影に専念しているノーテンキぶり。
残念なのは、このように登場人物の描写が甘いので、せっかくミステリアスな存在として描かれるはずのサクラ(村上東奈)の魅力が半減してしまっていることである。


以上、前提であったり役柄設定に矛盾や不備が数多くあり、…というよりも、ツッコミどころが多すぎる欠陥だらけ(よくもまぁ、こんな脚本が採用されたものである)なので、ストーリーをまともに追っていこうとすると、
「そんなわけないだろ!」
と、思ってしまうのである。


構成は先に述べたように、第一部と第二部で立場を入れ替えて描いているので、立場が替わればどちらにも理由があり、どちらが善でどちらが悪かとは言えない…ということがやりたかったのだと思う。
しかし、第二部を観れば、一連の事件の発端を作った夕子の卑怯卑劣な行いにこそ非があるのは明らかであろう。
一見凝った作りに見えるが、単に謎解きを先延ばしにしているに過ぎないのである。
せめて夕子は何故閃光塾のやり方に忠実なのか、何故教材を売らねばならないのか、何故遥にあそこまでひどい仕打ちをする必要があったのか…ということが描かれていれば、塾のためならば母のためならば悪事にも手を染める…というような理由づけがされていれば、だいぶ印象は変わったように思う。
結局、第一部・第二部通して観ると、「第一部はそもそも必要あったのか?」という思いまで生ずる(必要なかったであろう)。


昨今のアイドルは、そのアイドルそのものが高いストーリー性を有していることが多い(アプガはその代表的なグループのひとつだと思う)。
皮肉なことに、この『讐〜ADA〜』という作品の中で最も説得力のあるシーンは、Tパレ新加入のキャラメル☆リボンがTパレのリーダー格であるバニラビーンズにご挨拶する場面である。
そういったアイドルの実際の、現在進行形のストーリーに負けないように、アイドル主演の映画をインパクトある作品に仕上げるためには、ホラー、スプラッタという方向に持っていくしかないのかな?…とも思った(もっとも、過去にあった作品もそのことごとくが失敗作であるが)。
しかし、よくよく考えれば舞台の方ではこれまでにホラーになど頼ることなく、サスペンス物にしてもそれなりの作品を輩出しているし、中には名作、佳作と称される作品もある。
先だっての写真集『RUN! アプガ RUN!(仮)』のイベント(7/5@新宿タワレコ)にて、土屋恵介氏が言っていた言葉を思い出さずにはいられない。
「もしもこの『RUN! アプガ RUN!(仮)』が映画化されるとしたら…」
はい。おそらく、この映画よりは100倍いい作品となっていたでしょう。
(土屋氏は映画化された場合の音楽について言及していたのだが)


アイドル、及びアイドルヲタの水準に達するよう、映像業界の奮起に期待したい。